私が山下達郎氏を嫌いになった理由と、竹内まりやさんの「駅」。

 実は私、今から38年ぐらい前の頃、山下達郎氏の大ファンでした。無論大滝詠一氏も好きで、両氏のLPを買いまくってはテープに録音し、カーステレオで良く聞いていたものです。

 そんな山下達郎ファンが何故山下氏を嫌いになったのか。理由は、竹内まりやさんの「駅」です。

 話は前後します。少し前の事になりますが、ネット上で、「竹内まりやの『駅』の歌詞の最後の部分、『私だけ愛してた事を』の意味は、『私だけが』の意味か、『私だけを』の意味か」についてちょっとした論争になった事がありました。全体的な傾向として「を」派が「が」派よりも優勢だったと思います。

 これに関しては、私は完全な「が」派です。理由は簡単でして、「駅」の歌詞の初めの方に「昔愛してたあの人なのね」と言うくだりがあります。そして歌詞の後の方に「私だけ愛してた事も」が出て来る訳ですから、この歌詞の対比を考えると、「私は昔あの人を愛していた。しかしそれは私だけが愛していただけだった」となるのが当然であり、他の意味になる余地はありません。これは歌詞の解釈云々の問題ではなく、単純な国語の問題です。ここで「私だけを」の意味と考えると、「昔愛してた」の意味が格段に薄くなってしまいます。冒頭にネタ振りを行って最後に落ちを付けて締める意味でも、ここは「私だけが」でないと締りがなくなってしまいます。

 ところが、竹内まりやさんはどう言うつもりで書いていたのかと言う事になりますと、これは話が別です。竹内さんは「私だけを」の意味で書いたと明言しておられますし、そもそもここの部分は現在の歌詞になる前は「私を愛していた事も」と言うような文言で、「私を」と明言されていたそうです。

 これに関しては、以前にネットで読みましたが、中森明菜さんの新曲として「駅」が出る事が、中森さんのファンクラブの会報に書かれていて、そこに「私を云々」と書いてあったのだそうです。その記事は、現在は検索しても出て来なくなっていまして、ここにURLを明示出来ないのは申し訳ありませんが、私としては確かにそれを見たと申し上げておきます(注:追記参照)。

 竹内さんがこう明言している以上、私としてはこれ以上何も言う事はないのですが、私の意見は前述した通りでして、ここは前の部分との対比で「私だけが」とした方が、歌詞全体が引き締まるのは間違いないと考えます。この部分を「私だけを」とすると、「何と自意識過剰な女だ」と、正直、私としてはドン引きしてしまいますね。

 さて、これが元のまま「私を」と明言されていたままならこのような問題は発生しなかったのですが、この部分が「私だけ愛してた事も」と変わってしまい、「私だけが」の意味に取れる余地が発生してしまったため、話がややこしくなってしまいました。中森明菜さんはこれを「私だけが」の意味を込めたとしか思えない歌い方で歌ったようです。

 これに激怒したのが山下達郎氏です。「中森明菜」と名指しまではしなかったのですが、「余りにも酷い解釈」と思い、竹内さんにセルフカバーを勧めたそうです(この経緯は竹内さんのアルバム「Impresssons」の「駅」のライナーノートにて、プロデューサーである山下氏が「あるアイドルシンガーの解釈のひどさ云々」として書いておられます)。

 で、ここまで書きまして、やっと「私が山下達郎氏を嫌いになった理由」に辿り着きます。その理由も簡単で、「何と大人げない。山下達郎の狭量ぶりには虫酸が走る」と思ったからです。

 そもそも、「『私だけを』としか解釈してはならない」と言いたいのなら、歌詞を曖昧にした事が悪いのであり、「私だけを」と明示しておくべきです。譜割りの関係で「私だけ愛してた事も」とせざるを得ないと言うかも知れませんが、それもナンセンスであり、「わたしーだけー、あいしーてーたーこーとーもー」と歌わずに、「わたしだーけを、あいしーてーたーこーとーもー」と歌えば良いだけであり、言い訳にはなりません。

 余談ですが、松任谷由実さんの「春よ、来い」にも歌詞の譜割りの中途半端さがあります。「春よ、遠き春よ」とあるかと思えば、「春よ、まだ見ぬ春」ともあり、脚韻が統一されていません。私なら「春よ、まだき春よ」とするか、「はーるよー、まーだーみーぬーはるー」でなく、「はーるよー、まだみーぬーはーるよー」にして、脚韻は統一します。蛇足ながら、「駅」の中で使われている人称にも統一性の欠如が見られます。この歌にはこの女性自身と相手の男性しか出て来ないのに、相手の男性を「あなた」と言ったり「彼」と言ったり「あの人」と言ったり、統一性がありません。この歌なら「あなた」で統一するように文字数を調整すべきでしょう。どうも音楽家の方々は、こう言う細かい部分がぞんざいだとしか思えないですね。

 で、話を戻しますが、「中森明菜の解釈云々」で口汚く中森さんを罵る割には、歌詞全体の統一感を蔑ろにした「私だけを」については何も言わない山下氏を、私は徹底的に嫌いになりました。それ以降は一切山下氏の音楽にも竹内さんの音楽にも金は投じておりません。無論、この考えを他者に押し付ける気は全くありませんが、私はそう思った、と言う事を書いておきたくなったので書かせて戴きました。

 2020年12月03日追記

 本文にて、『これに関しては、以前にネットで読みましたが、中森明菜さんの新曲として「駅」が出る事が、中森さんのファンクラブの会報に書かれていて、そこに「私を云々」と書いてあったのだそうです。その記事は、現在は検索しても出て来なくなっていまして、ここにURLを明示出来ないのは申し訳ありませんが、私としては確かにそれを見たと申し上げておきます』と書きましたが、たまたまブックマークの片隅に残っていました。下記URLの書き込みの中の、

「No. 0037 ■ ファンクラブ会報から maupin [ 2011年11月18日(金) 01:39 ]」

がそれです。

http://live.music.coocan.jp/review-cgi/utahime_compo_review.cgi?page=2&compo=60


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この記事へのコメント

2020年04月22日 23:42
当時、中森明菜さんと竹内まりやさんのCDを買っていていました。
竹内さんのCDのライナーノーツを見て、これって中森明菜さんの事ではと固まったのは今でもはっきり残っています。
人を傷つけてしまうと残るものなんですね。ある発言を見て、あれこの人?と思って検索してここに来ました。
VIA MEDIA
2020年04月23日 00:05
 コメント有難う御座います。まあ、私に言わせれば、音楽も小説も絵画も所詮は「商品」であり、工業製品と全く同じなんですよ。

 なのに所謂「芸術家」の方々は、自分達の商品が何か「崇高」な物だと勘違いなさっておられるように思えてならなかったのでこの文章を書きました。
2020年06月05日 08:55
同じことを感じていました。

山下達郎氏の音楽自体は嫌いではないのですが、彼の立場で後輩をあんな場所で貶す必要はないですよね。

直接関係ありませんが、車でラジオ聞いててやたらうざくて不快だなと感じたMCが山下氏でした…まあ個人の感想ですけど。

ちなみに「駅」の歌詞の解釈そのものは、私も先入観なく初めて聞いたときに「を」で解釈しましたしそれ自体はそうだろうなと思うのですが、あの場でのあのコメントは妻のベストアルバムさえも貶めてるとしか思えません…。
VIA MEDIA
2020年06月05日 16:41
 まず「を」と「が」の件は、本文にも書きましたように私としては「が」以外有り得ないと思っています。ただ、これも本文に書きましたように、竹内まりやさんが「を」のつもりで書いたのならそれ以上何も言うことはありません。ただ、「薄っぺらい内容だな」と思うだけですね。

 次に、山下達郎氏の狭量ぶりにはいい加減虫酸が走る思いでした。「このようにしか解釈してはいけない」と言うのならそう明言した文書でも添付すべきです。「それを汲み取るのがアーチストだ」と言わんばかりの高飛車な姿勢には唾棄すべき思いを抱きますね。
コーラル
2020年07月12日 13:22
私もあれ以来山下氏が嫌いになってしまいました。
こういうつもりで書いたから、こう歌ってほしいというのがあるなら、そのように指示すればいいのに。(しかもつくったのは奥様ですし)

私は竹内さんの「私だけを愛してたことがわかる」バージョンの、自信満々な歌い方の作品も嫌いではありませんが、明菜さんの解釈の作品に一方的に難癖をつけるのは納得が行きません。
プロ意識で物申してるつもりかもしれませんが、失礼な方だなと思ってしまいました。

私としては、提供された歌い手の解釈に任せてほしいと思います。
sakyo
2020年07月13日 18:49
中森明菜のファンとしてこの歌にはまっていました。
後から竹内まりやさんのバージョンががあまりにも大きな声で元気に歌われているのを聞いてガッカリしました。音楽界の力関係で明菜の歌の世界がひっくり返されてしまったのですね。
「駅」はアルバムの構成曲なのですが、
きっとアルバムは聞いていないのでしょう。
明菜をアイドルと呼んでみたり、竹内まりあさんに歌い直させたり、度量の狭い人なのですね。
2020年08月09日 22:45
山下達郎氏の解説を読み、忘れられず、ふと検索して辿り着きました。私をか、私がか、どのように中森明菜さんが解釈して歌ったのか、いくつか記事も読みました。
私が残念に感じるのは、歌い手の解釈について非難するのではなく、『これほど悲しい気持ちを持っていてそのように読み取ったのか』と思いつつ聴くと、本当に胸を詰まらせる響きを聴かせてもらえるのに、その余地を与えない書き方であった事です。書かれた歌はそれのみで存在するのではないのでしょうか。歌い手が作り手の思いを超えてもいいのでは、と思いますがそれを許されないのでは歌は育つ事はないでしょうね。
VIA MEDIA
2020年08月09日 23:05
 いくつかコメントを戴きながら放置していたような形になり、どうも申し訳御座いません。

 私としては歌詞に対する「解釈云々」はナンセンスだと思っています。歌詞の内容は作者の意図が全てであり、解釈の余地などありません。その意味で、竹内まりやさんが「私だけを」の意味で書いたのならそれが全てであり、それ以上でもそれ以下でもありません。

 しかしそれならそれで「この歌詞はこう言う意図で書いたからこう歌うように」と言う「仕様書」を付けておくべきです。そしてどっちとも取れるような曖昧な書き方はすべきではありません。

 また、中森明菜さんも自分の感情を勝手に込めたのだとしたらそれも独りよがりでしょう。作者の意図に沿って歌うのが本筋だと思います。

 これは森進一さんが「おふくろさん」に勝手に台詞を追加し、しかもその内容が作者の川内康範先生の意図とは大きく違う内容だったため、川内先生の怒りを買い、歌唱を禁止された事とも通じます。

 歌手はあくまでも歌い手です。作詞者、作曲者、編曲者と一緒になって歌を作るとは言え、歌詞の内容や曲調に背いた歌い方はすべきではありません。

 ただ、繰り返しますが、それ故に明確にしておくべきであるのは、冒頭の「昔愛してた」と、最後の「私だけ愛してた」の「愛してた」は同じ方向の愛であるべきであり、同じ意味になるべきだと言う事です。

 冒頭の「愛してた」は「自分が相手を愛していた」の意味なのですから、最後の「愛してた」も同じ意味になるべきです。

 この二つの「愛してた」が別の意味であると言うのなら、歌としての内容は実に浅薄で、ただ言葉を並べただけのものでしかなく、歌詞の値打は極めて低いと思います。
なおなお。
2020年11月28日 20:40
初めまして。
私も、この批判が原因で、竹内まりや・山下達郎夫妻が大嫌いになりました。
KFCで、「すてきなホリデー」や「今夜はHearty Party」が掛かっているとムカつきます。ここ3年、毎年、「掛けないで欲しい」と要望は伝えていますが、相手にはされてません。
こういっては何ですが、山下達郎の「クリスマスイブ」がCMに使われて、毎年、オリコンにチャートインしていたから、味を占めているものと思います。
歌唱に関して、山下達郎と竹内まりやは、自身の才能を鼻にかけているようでそれが出ています。
二人とも、感情がこもっていなくて、上辺だけで、共感ができないんですよね。強弱も付けられないですからね。
お二人の性格が、歌唱に表れています。
私は、山下達郎なら、小田和正さん、竹内まりやなら、渡辺真知子さんの方が好きです。
渡邉真知子さんは、楽しそうに歌っています。本来、歌はこういうものなんですよね。
VIA MEDIA
2020年11月29日 06:45
 なおなお。様、コメント有り難う御座います。山下達郎氏竹内まりや氏の実績はともかくとして、本文にも書きましたように、中森明菜さんへのこの一連の対応は本当に見苦しかったと思います。

 無論、竹内まりやさんはそれほど乗り気ではなかったようですが、私にしてみたら、何故「私を愛してた」を「私だけ愛してた」に変えたのか今でも疑問なんですよ。

 文章と言うものは取り違えられるような曖昧な書き方はすべきではないと思います。そう言う意味では竹内さんのこの「変更」は本当に余計だったと思いますね。

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